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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)1578号 判決

控訴人 高田節子

右訴訟代理人弁護士 藤原義之

被控訴人 株式会社静岡相互銀行

右訴訟代理人弁護士 堀家嘉郎

同 五十嵐七五治

同 桑田勝利

主文

原判決を次のように変更する。

控訴人は、被控訴人から金四七八万六七〇四円の支払いを受けるのと引換えに、被控訴人に対し、別紙物件目録記載第一の土地につき東京法務局新宿出張所昭和四二年八月三日受付第二〇七七六号停止条件付所有権移転仮登記及び同目録記載第二の土地につき同法務局出張所昭和四三年二月八日受付第二六六四号停止条件付所有権移転仮登記に基づきいずれも昭和四六年一〇月二一日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、これを四分し、その三を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次のように加入、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(事実上の陳述)

一、被控訴人

(1)控訴人は被控訴人に対し訴外会社の被控訴人に対する昭和四二年七月一〇日付手形取引契約等に基づく借入債務につき連帯保証人となったものである。

(2)原判決事実摘示請求原因(三)及び(四)(原判決書三枚目裏六行目から同四枚目表六行目まで)を次のように改める。

被控訴人は訴外会社に対し、右手形取引契約等に基づき現に次の債権を有している。

(イ)元本債権金一〇四五万五七一五円

(ロ)内金四二八万二一一五円に対する昭和四四年七月二二日から支払済みまで日歩五銭の割合による遅延損害金

(ハ)内金四八五万〇六〇〇円に対する昭和四三年一〇月一日から支払済みまで日歩五銭の割合による遅延損害金

右のうち、昭和五〇年五月一五日現在における(ロ)の金額は金四五四万七六〇六円、(ハ)の金額は金五八六万四三七五円である。したがって、右(イ)ないし(ハ)の同日現在における合計額は金二〇八六万七六九六円となる。

(3)被控訴人は控訴人に対し前記連帯保証契約に基づき現に(2)と同額の債権を有する。

(4)なお、本件土地の価額を仮りに当審における鑑定の結果による金二五六五万四四〇〇円とすると、この額を前提として清算金を算出すると金四七八万六七〇四円となる。

(5)当審鑑定人の結果によると本件土地の価額が金二五六四万四四〇〇円とされているが、右の鑑定価額が本件土地の価額として唯一のものではないし、右鑑定価額と債権現在額との差額は昭和五〇年五月一五日現在で金四七八万六七〇四円であるけれどもこの程度の差額は鑑定価額を絶対的に正確なものとして所有権移転登記と引き換えに支払いを必要とするほどのものではなく、加えて五月一六日以降は一日につき遅延損害金四、五六六円の債権額が加算されることを考えあわせるならば、なおさらその必要は認められない。

(6)控訴人の後記(2)の主張は争う。

二、控訴人

(1)原判決事実摘示請求原因に対する認否中「同(三)(四)の事実はいずれも不知。」(原判決書四枚目裏三行目)を、「当審における被控訴人の主張(1)及び(3)の事実は否認する。同(2)の事実は不知、但し、計算関係は争わない。」と改める。

(2)仮りに、被控訴人との間で、その主張のような停止条件付代物弁済契約が成立したものと認められたとしても、右の契約はいわゆる清算型であるから、被控訴人は第一、第二土地の価額が債務額を超えるときは右の超過額を控訴人に返還すべきところ、第一、第二土地の価額は現在少くとも金三五〇〇万円以上であり、これに対し代物弁済に充てらるべき訴外新菱産業株式会社の被控訴人に対する債務額は右の土地価額に満たないから、控訴人は被控訴人から第一、第二土地の価額と債務額との差額の支払いを受けるまでは被控訴人の本件登記請求に応ずる義務はない。

(証拠関係)〈省略〉。

理由

一、当裁判所は、原判決書五枚目裏二行目中「(三)(四)」を削り、同行中「事実」の下に「及び本件基本契約に基づく債務につき控訴人が連帯保証人となったこと並びに訴外会社及びその連帯保証人である控訴人は被控訴人に対し本件基本契約及び右連帯保証契約に基づく債務として、いずれも金一〇四五万五七一五円及び内金四二八万二一一五円に対する昭和四四年七月二二日から、内金四八五万〇六〇〇円に対する昭和四三年一〇月一日からそれぞれ支払済みまで日歩五銭の割合による金員の支払義務を負担している事実」を加えるほか、原判決と同じ理由で控訴人被控訴人との間に第一、第二土地につき被控訴人主張の停止条件付代物弁済契約を締結して停止条件付所有権移転仮登記をすることを約し、被控訴人はこれに基づきその主張の各仮登記をしたものと認めるので、原判決の理由(ただし、原判決書五枚目表九行目から同八枚目裏九行目まで。)をここに引用する。

二、被控訴人が控訴人に対し本件訴状により前記代物弁済契約に基づき第一、第二土地の所有権を取得する旨の意思表示をし、同訴状が昭和四六年一〇月二一日控訴人に送達されたことは記録上明らかである。しかして、被控訴人はこれが意思表示により控訴人が被控訴人に負担する債務は右の代物弁済により消滅すべきところ、通常右のような停止条件付代物弁済契約にあっては代物弁済の目的たる不動産の価額が債務額を超過する場合にはその差額を清算して債務者である控訴人に支払わなければならないいわゆる清算型担保と解すべく、債権者において本登記請求の訴えを提起した場合に、債務者が右清算金の支払いと引換えにその履行をなすべき主張をしたときは、債権者が第三者への換価処分による売却代金を取得した後に清算金を支払えば足りると認められる客観的な合理的理由がある場合を除き、債権者の右請求は、債務者への清算金の支払いと引換えに認容すべきものであるところ、当審における鑑定人加藤実の鑑定の結果によると、昭和五〇年二月現在第一、第二土地(成立に争いのない乙第六号証によると、その実測面積は二一一平方メートル六七と認められる。)の時価(取引価額)は金二五六五万四四〇〇円であると認められ、これが価額は本件口頭弁論終結時である昭和五〇年五月一五日現在においても右と同額であると認められるところ、同日現在における訴外会社及び連帯保証人である控訴人が被控訴人に負担する前記一記載の債務の合計額が計数上金二〇八六万七六九六円となることは当事者間に争いがなく、したがって、被控訴人は控訴人に対しその差額金四七八万六七〇四円を支払うのと引き換えに第一、第二土地の所有権移転登記手続を求めることができるものといわなければならない。

三、被控訴人は、右の鑑定価額は唯一絶対的なものでないと主張するが、右の認定を左右するに足る証拠はないし、また右の差額程度は控訴人の債務が一日につき金四、五六六円の遅延損害金が発生することをあわせ考えると引換給付を命ずるほどの必要がないと主張するけれども、右のような清算差額が生じている以上引換給付を必要としないほどの額とは認められないので、被控訴人のこの点に関する主張は理由がない。

四、右によると、被控訴人の本訴請求は、控訴人に右清算金の支払いを条件にのみこれを認容すべく、その余の請求は失当として棄却を免れない。

したがって、原判決中被控訴人の本訴請求を右の清算金の引換えを条件にしないで認容した部分は不当として取消しを免れず、この点に関する控訴は理由があるけれども、その余の部分は相当であって、この点に関する控訴は理由がない。

よって、原判決を変更し、被控訴人の請求を右の範囲で認容し、その余を棄却し、訴訟費用は第一、二審とも当事者双方の勝敗の割合を勘案してこれが負担を定めることとして主文のように判決する。

(裁判長裁判官 豊水道祐 裁判官 館忠彦 安井章)

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